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PHP Business Review2004年9・10月 にシアターハウスが紹介されました

PHP Business Review2004年9・10月にシアターハウスが紹介されました。

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日本の新規産業を支える福井のスクリーンメーカー

人としての倫理観が改めて問い直されている現在、高い倫理観に立ち、顧客の気持ちに なって考えて、自社製品の最終にまで責任を持ち、なおかつ環境に対する配慮も視野に 入れてこそ、トップリーダーとしての役割が果たせるというものだ。日本の大企業は そうした視点からの厳しい評価に晒されているが、日本の経済を支える中堅・中小企業の ほとんどは、好景気のときも不況のときも流されることなく、変わらぬ姿勢で自分たちの 理念に従って仕事を続けてきた。そのような会社にこそ時代を超えて生き抜く底力が、 今さらのように見えてくる。
そこでの共通項は「気負いのない高い志」であろう。

ホームシアターの大迫力

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「あなたの居間が突然映画館に!」という、今や一大ブームを起こしつつある ホームシアターの謳い文句は本当だった。テレビ画面とは比べものにならない臨場感は、 一度見たら吸い込まれるほどの強烈な迫力なのだ。

 顧客それぞれの部屋のサイズと光度(明るさ)に合わせて、オーダーメードの ホームシアター用スクリーンを製作・販売する会社がある。ほとんどの場合、 注文の翌日には出荷するという福井市の株式会社シアターハウスは、日本で唯一の 専門メーカーだが、スタッフ六名のアットホームな会社だ。

社屋は機屋(はたや)を改築したもので、吉村明高社長が「明るく広く適度な緊張感を 保つため」だと言うように、事務所と工房の境はガラス張りで、奥の倉庫を含めて 各室の壁の色が全て違う。おしゃれな喫茶店のようにも思える内装だ。
 ここで月間三百本ものスクリーンが製作されているとはとても思えないほど、 静かで落ち着く佇まいだ。

これまでの経験が全て役に立っている

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江戸時代から福井は機屋の町だった。
 昭和三十四(一九五九)年、吉村機業場の一人息子として生まれた吉村明高社長は、 幼い頃から繊維や織物を肌で学んでいた。特殊な織り方や加工技術があった吉村機業場は それなりの業績を上げていた。

 

しかし、機械類に関心の高かった吉村社長は、国立福井高等専門学校卒業後、海外に 市場展開するテレビ・ビデオの開発・製造会社であるオリオン電気に就職して、 設計を担当した後、米国法人の立ち上げから軌道に乗せるまで、九年間のインディアナ州 滞在を経験した。このときに得た映像に関する知識・体験が、現在のスクリーン製作に 役に立っていることは言うまでもない。  いつかは家業を継ぐつもりでいた吉村社長は、帰国を契機に退社し、父親の仕事を手伝い 始めた。

 

そんなある日、友人の家で見せてもらったスクリーンに映る大画面に感動して、自分も 是非欲しいと思ったのが創業のきっかけとなる。中古のプロジェクターをインターネットの オークションで手に入れたものの、スクリーンは高くて手が届かなかった。そこで自分で つくってしまおうと考えた。
 材料は目の前にある。仕事上どこでどんな加工が出来るのかもわかる。何回かの改良の後、 通常価格の数分の一で自分のためのスクリーンができあがった。

 同じ思いをしている人にも知らせてみようと、個人の名前でヤフーのオークションに出した スクリーンは一週間で三十本売れたという。
 小遣い稼ぎのつもりが、思いがけない反響に、社長は「これなら商売として成り立つのでは」 と思ったという。
 「今思うと、私が過去にやってきたことは、ひとつも無駄になってないのです。ホームページ のこと、繊維の知識、電気・映像関係のこと、全部が今の商売に生きています。結局、人生って 無駄はあんまりないんじゃないかなあ。過去にやったことは将来何かの形で生きてくる可能性が あるんじゃないかと思うんですよ。」

買ってくれる人はお客様じゃない

起業の原点は、自分と同じように思い通りの画面を手に入れることが出来ずにいる映画好きの 人たちに、こんなスクリーンがありますよ、と知らせてあげたい、ただそれだけだった。 それ故、「買ってくれる人を、お客さんだと思ってないんですよ。『大画面が好きな同好会の仲間』 だと思ってるんです。」と笑顔で語る。

「自分自身が一番のユーザーだから、仲間は何が欲しいか、どんなサービスを求めているか、 よくわかるんです。ユーザーの希望に沿い、出来る限りのサービスを会社
として実現したいというのがポリシーです。」

 

従ってシアターハウスのスクリーンは特注品が主で、標準品はストックとして空き時間に作られる。 価格はプロジェクター(映写機)や吊り金具を含めても、今注目を集めているプラズマテレビの半額以下 だというのだから、需要が飛躍的に伸びていくのは当然といえる。
 「僕の目的は、大量に安く売りたいというのではありません。量と値段で勝負というのは嫌いなんです。 日本中の「特注品が欲しい」という人を相手にしたいんです。」
 そして、プロジェクター製作会社からのタイアップ提案にも乗らない。
 「私は誰にでも売ります。しかし、ホームページで表示している価格でしか販売しません。」
 売り上げが伸びているからといって、会社の規模を大きくして、生産量と従業員の数を増やせば、 売上目標に振り回されることになる。吉村社長のこだわりは、大量生産で質を落としたくない、ユーザー に自分の製品を直接売りたいという願望に支えられている。

人気の秘密

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日本全国にスクリーンメーカーは十社程度あるが、シアターハウスの人気が急上昇した理由は 次の五つに集約される。
①環境光度に対応する両面スクリーン
通常スクリーンと言えば表が白、裏が黒だが、シアターハウスのスクリーンは、表が黒の再現を 追求したシアターマット、、裏が白で、明るさによって使い分けできるリバーシブルになっている。 これは日本中どこにもない画期的な特長だ。
②特注サイズと瞬間見積もり
個人の部屋から会議室、学校まで千差万別の部屋の状況に合わせてスクリーンの大きさを設定できる。 注文者が横幅さえ決めれば、三対四、あるいは九対一六の縦横比で瞬時に見積もりを計算してくれる。 しかもインチ表示ではなくミリ単位で対応する。さらに特注だからというコストアップもない。
③張り替えサービス
スクリーンが汚れたり、傷ついたりした時、一回だけは購入価格の二割で張り替える(送料別・期限なし)。
④製造販売
最終ユーザー直接のネットショップなので、流通コストが全く発生せず、安価な商品提供が可能となる。
⑤取り替え可能
実際に商品を見て購入できない通信販売上の不安を解消するため、一週間以内の返品に応じているし、 取り替えも可能である。

 低価格でサービスの良いスクリーンメーカーがある、という評判が口コミやネット上で広がり、 シアターハウスの名は今やネット上で大ブレイクしている。ファン同士のチャット掲示板もあるほどだ。 一日のアクセス数が四千件というのもうなずける。

社名に関するトラブル

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企業が急成長すると、思いがけない問題が起こることもある。
 自作のスクリーンをヤフーのオークションで売り始めたとき、思いつきでつけた名前は、『吉村光学 研究所』だった。あまりの売れ行きにすぐさまそれを社名にして有限会社を立ち上げたところ (二〇〇一年八月)、二か月で本業(繊維製造業)の売り上げを上回ってしまった。
 嬉しい驚きだった。

 「これはいける」と思った吉村社長は、機屋をたたむ決断をした。先代が他界していたこと、直接 お客様の反応を得ることのない先行き不安な繊維製造業に興味が薄れていたため、躊躇はなかった。 ただ取引先への最終納品を完了するには半年を要した(二〇〇二年四月廃業)。
 スクリーンの注文が増えるに連れて、振込み入金の際『有限会社吉村光学研究所』という名前は 長すぎて、たびたびATMでの入力ミスが発生するようになった。そこで、覚えやすい名前が いいだろうと、二〇〇二年九月、『株式会社ピュアビジョン』と改名した。ところがこれは、 パイオニアのプラズマテレビのブランド名としてすでに商標登録されていた。
 地方で小規模に製作を続けているだけなら問題にならなかったかもしれないが、吉村社長の会社は いきなり全国区デビューで、しかも急成長株だったのだ。
 「ヤフーでもグーグルでも「ピュアビジョン」で検索すると、一番に私どもがパパパーッと出て、 最後のほうにパイオニアが出てきたんですよ。」
 当然のようにパイオニアから抗議の文書が届き、せっかく人々に受け入れられつつあった 「ピュアビジョン」はあきらめた。
 そして二〇〇四年二月、一般公募から決めた社名が、現在の「株式会社シアターハウス」。 もちろん即座に商標登録した。

社長の仕事

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「一番大切なのはメールの質問に即座に答えることですよ」

 社長は、スクリーンそのものに対する質問だけでなく、大画面でテレビや映画を楽しむに至るまでに 必要なことのあらゆる質問に答えるという。何しろセールス抜きの『同好会仲間』という意識なので、 困っているなら助けてあげようと返信を繰り返すうちに、就寝が深夜になる日々が続いている。 というのも、仕事を終えて一日の終わりにパソコンに向かうのは決まって夜更けになるからだ。その後 社長は、メール件数が増えるに連れて、よくある質問には「FAQ及び便利ページ一覧」で対応できる ようにホームページを充実させた。一方、購入年齢層は一番インターネットを使う年齢層でもあるため、 ネット上で商売をする社長にとって好都合な点でもあった。

 

「夜中にメールが来て、すぐ返事して、二~三回やり取りするとそのまま注文を受けて、次の朝すぐ作って 出荷すると、数日して「すばらしい!」といったメールが返ってきますよ」
 インターネットで買い物をした人がサンキューメールを出すこと自体、非常にめずらしいことと 思われるが、吉村社長のところには、毎日何通か「買ってよかった。満足している」というメールが入るという。

新規事業を支える

実はここに、ひとつの新しい産業の息吹がある。これまで隙間産業とされてきたリフォーム産業である。 夜中のメール問い合わせ者のなかで多いのが、工務店経営者だというのだ。
 「リビングルームを改造してホームシアタールームにしたいのだが、一体どうしたらいいのか」といった 基礎的な質問から、「メジャーリーグ中継を観るのに一番適したスクリーンは何か」という質問まで 千差万別だとはいうが、ほとんどが家のリフォームに結びつく。

 団塊世代の熟年期への到達を期にリフォーム事業は急進している。家族構成の変化だけでなく、より 充実した老後を送るために、ホームシアターは必需品になりつつある。
 こんな背景を踏まえて、二〇〇四年六月から大相撲の高見盛関とキャラクター契約を結んだ。相撲は 年輩者に人気がある。
 「私としてはメールのやり取りが好きだし、仕事は趣味の延長みたいなものですが、趣味のものと いうのは作る側が気合を入れて作らないと満足してもらえないんです。私にとっては何百本のうちの 一本のスクリーンですが、お客様にとっては唯一の一本ですから、一生懸命作りますよ」
 と語る社長は生き生きとして嬉しそうだ。
 販売数五千本につき三本しか返品がなかったというのは、大手メーカにはかなわないきめ細やかな 対応の結果であり、シアターハウスの存在意義といえる。

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